もう昨年のことになりますが、2025年10月に Vincent Moon さんにお会いすることができました。

Vincent さんはビデオカメラとバックパックを背負い世界中を旅しながら映像を撮り続けているフランス出身の映像作家です。おそらく多くの人がそうであるように僕も「Take Away Show」を観たことが Vincent さんを知るきっかけになりました。

有名無名のミュージシャンから、世界各地の伝統音楽や宗教儀式、実験的な音楽など Vincent さんが記録してきた膨大な数の映像作品が Web Site にまとめられています。

https://www.vincentmoon.com

Vincent さんは僕にとって唯一(と言っても過言ではないほどに)好きな映像作家です。何年前だろう?10数年ほど前から氏の映像をずっと観てきていましたが、自分が映像を撮ることに意識的になり、作品をつくるようになってからはとても大きな影響を受けてきましたし、原動力の一つにもなっていたように思います。

常に世界中を旅している Vincent さんは文字通り遠い世界の人として感じていたのですが、ふとしたきっかけでお会いすることができたことは、自分にとって驚くべき出来事でした。

ある時 Vincent さんの instagram ストーリーズを見ていたら、日本に来る前のベトナム(だったかな?)でなんと愛用してきたビデオカメラが壊れてしまったので、次に向かう国・日本で新たに同じモデルのカメラを探していることを知りました。僕は全く同じ Panasonic P2 カメラを使っていて、今の時代にこの古い P2 カメラ、それも同じモデルをピンポイントですぐに見つけるのは難しそうだし、新しく買うカメラが見つかるまでの間だけでも自分のカメラを貸しに届けてあげたいなと思いました。

ですが、メッセージを送ろうかなどうしようかなと考えているうちに結局送らないままでいました。するとまた何日か後に今度は、長年一緒に旅をし撮影をしてきた相棒であるビデオカメラが死んでしまったので波の打ち寄せる浜辺で弔いの儀式を行っている様子が投稿されていました。これを見て僕はやっぱり連絡をとってみようかなと再度思い直し、Vincentさんの映像を好きな友達に相談してみました。「もうこんな時代だから隣り合わせだよ。聞いてみたらいいよ。」という友の言葉に背中を押され、思い切ってダイレクトメッセージを送りました。

するとすぐにお返事をいただきました。ぜひカメラを借りたいとのことでした。本当に救われましたし、心が軽くなりました、メッセージを読んで涙がこぼれました、とまで言ってくれて、Vincentさんのお人柄を感じとりましたし、長年連れ添った愛するカメラを亡くしてしまって悲しみのうちにいることも感じました。

カメラの受け渡しについて電話で話せますか?とのことでしたが、僕は英語はほとんど話せず英語のメッセージは Web 翻訳を使って書いているので、誰か英語の話せる Vincent さんの日本人の友達に間に入ってやりとりしてもらうのはどうですか?と提案しました。Vincent さんの今回の関東でのライブシネマ・オーガナイズをしており、インド哲学を探求しているミュージシャンでもある平田博満さんが間に入って日程の調整などをしてくださることになりました。

そして10月2日。次の撮影地である大月へ向かう Vincent さんと、待ち合わせた八王子駅のホームでお会いすることができました。

 

 

Vincent さんはバックパック2つと長方形のハードケースを両手に抱え階段を降りてきて、もうそのまんま、まさに旅の人の空気を纏って現れました。僕の拙い英語でのやりとりでしたがなんとかカメラをお渡しすることができました。電車乗り換えのほんの数分の間の出来事でした。Vincent さんは早速僕が渡したカメラの電源を入れモニター越しに駅のホームを眺めてみたり、ご自身の P2 カードを入れて、撮影してきたばかりの映像をとても楽しそうな無邪気な様子で見せてくれました。あっという間に乗る電車が来たので、次のライブシネマ、代官山・晴れたら空に豆まいてで会いましょうと約束をし、見送りました。

 


そして10月10日。Vincent Moon’s Live Cinema at 代官山 晴れたら空に豆まいて へ行ってきました。Vincent さんがこれまで撮影してきた世界中の膨大な数の映像と音を即興でミックスし、その日その場限りの映画が生まれるライブシネマ。開始前に Vincentさんと平田さんによるお話があり、そこで Vincent さんは集まったお客さんに「どこの国の映像が観たいですか?」というようなことを訊き集め、即興の中でそこで挙がった国を旅していくことになりました。演者とお客さんの間に垣根を作りたくない、というようなことも言っていたと記憶しています。

 

 

 
僕はこのライブシネマを訪れたのは初めてでした。流れゆく音と映像が織りなす世界に没頭しているうちに瞬く間に時間が過ぎてゆきました。どこかの部族らしき人たちの音楽がとても良かったり、日本でつい先日撮影してきたばかりの映像を早速織り込んでいることに驚いたりもしました(サウンドアーティストの FUJI|||||||||||TA さんや打楽器奏者の高田みどりさんの映像は自分のカメラで撮影されたものであったので、そのことを感慨深く感じていました)。

この日はゲストの登場もあり、Vincent さん1人のパフォーマンスが終わった後には、OOIOO の YoshimiO さんとのライブセッションが始まりました。人と人とが即興で感応し合い紡がれてゆく音と映像の世界。1人の時のそれとはまた違う広がりと奥行きを感じました。とても濃密な時間でした。

中央ベトナム・ジャライ族のシーン – Central Vietnam Jarai people (Người Gia Rai)

 

サウンドアーティスト・FUJI|||||||||||TA さん

 

YoshimiOさんとのセッション

 

その場その時限りの世界へ観客を連れてゆくライブシネマ。まるで異なる世界の音と映像がはじめからひとつであったかのようにとても自然に交わり溶け合って、その波にただただ感覚をゆだねては意識の新大陸を巡り歩いているような心地で、時間のはずれた時の中にいるようでした。ライブシネマ、それは自分にとって真新しく、素晴らしい体験となりました。
 

 

終演後に Vincent さんと少しお話をしました。次のライブシネマ at 渋谷神宮前 bonobo の日に代わりの P2カメラが届くそうで、ではその日にまたお会いしましょうとなりまして。次回のライブシネマにも足を運ぶ流れに。
 

 

ということで、10月13日、思いがけず再びライブシネマ at 渋谷神宮前 bonobo へ。開演する少し前に bonobo へ到着。この場所へ来るのは初めてでした。とてもこじんまりとした建物で、1階はちょっと人が入ればぎゅうぎゅうになりそうなダンスフロア、2階はソファや椅子にテーブル、座敷がありリラックスできる部屋のような不思議な空間。扉を開けると Vincent さんや平田さんらがおりセッティングの最中でした。奥の方の棚の上にはフランスから送ってもらったという代わりの P2 カメラと僕のカメラが2台並んで置いてありました。無事に愛機が届いて良かったと思いつつ、敬愛する Vincent さんのカメラと自分のカメラが並んでいる不思議な姿を眺めていました。届いたばかりのカメラはまだ画面表示などのセッティングがされていなかったようで Vincent さんに「セッティングしてくれる?」と言われるがまま、お貸ししていたカメラと同じようにセッティングをしました。そんな何気ないやりとりも僕にとってはとても良い思い出のひとつです。

上映のセッティングが終わり、ライブシネマがスタートしました。お客さんも1人また1人と少しずつ入ってきます。なんとこの日は12時間のロングセット。本当に12時間もぶっ通しでやるのか…?と思っていたら本当にぶっ通しでやっていました。


 

 

 

ベトナム中央部のジャライ族。晴れ豆ライブシネマでとても心地よかった音、また聴けた。

 

 

 

そうそう、オープン前に、出店に来ていた roastery 8-18 さんにコーヒーを頼み、お話しているとなんと僕と同じ相模原から来られており、橋本にお店があるとのこと。同じ地域から来られている人にこの場所で出会えたことが嬉しく、話を続けていると共通の知人友人の繋がりがあることも発覚。そんなよき出会い、ちょっとした偶然も心に温かな出来事でした。
 

roastery 8-18 さんのコーヒーと、喜草さんの台湾茶やおつまみなど

 

roastery 8-18 ぶんたろうくん

 

お昼くらいのスタートから観はじめて、空が明るいうちに帰ろうかと思っていたのですが、流れゆく音と映像にただただ感覚をゆだねていたら気づけば時間はあっという間に経っていました。時間が深まり夜に近づくにつれて訪れるお客さんも次第に多くなり座敷もテーブルもぎゅうぎゅうに。入れなくなる方もいそうなので夕方頃においとましました。
 

 

今回のヴィンセントムーン・ライブシネマ、2日間、それぞれ別の場所へ行きましたが、2回ともかなり異なる感触を得ました。晴れ豆の方は2〜3時間くらい?だったような気がしましたので、個人的には結構集中して観入る、感じ入る、という具合だったように思いますが、bonobo の方は会場の雰囲気や12時間のロングセットだったこともあり、観ている自分自身もきっと”見逃すまい” みたいな気も張らずにリラックスしてその空間ごと味わっていたように思います。きっと海外でのライブシネマも国や会場によって全然違うフィーリングなのだろうなと想像できます。
 

 

スクリーンに映し出され溶け合ってゆく本当にたくさんの国の映像と音をぼんやりと眺めていると「このあらゆる映像と音はすべてこの今目の前にいる Vincent さんがあのバックパックとカメラを背負って、その肉体で旅して撮り集めてきたものなんだな」という事実に感じ入る瞬間がありました。あれだけの荷物を担いで辺境までも飛び歩き、異国に暮らす人々と出会いコミュニケーションを交わし、一発勝負の撮影をし、それらの映像をまた旅先でライブシネマしてゆく、その凄まじいエネルギー量。それが数ヶ月とか数年とか期間の定まった中でのことではなくて、そういった旅をする日常を、人生を生きていること。まさに現代のビートニクとも言えるような姿をそこに見ました。

2025年は個人的に喜びの Beat にも哀しみの Beat にも溢れた怒涛の1年で様々な出来事がありましたが、ずっと敬愛しその姿を追ってきた Vincent Moon さんに出会えたことはその年の中でも特別な出来事でしたのでこうして振り返り記しておくことにしました。

やっぱり、何かを好きだ(!)っていう気持ちというのはとても大切で、源から湧きでるその気持ちを素直に溢れさせて生きていると思いもよらぬ不思議な出来事に恵まれたりすることってあるなぁとまた改めて感じました。

Vincent さんのようにはなれないけど、僕は僕の周りにいてくれる好きな人たち、大切な人たち、ご縁のあった人たちの姿をこれからも映し続けてゆこうと思います。

Vincent さん、平田さん、この度は素晴らしい時を分けてくれて、ありがとうございました。これからも健康に気をつけて、よい旅を送れますように。

そしてご縁を繋いでくれた僕のP2カメラにも、ありがとう。

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